Mr. Obara Reed 5T Interview

2018年5月に小原由夫先生宅に導入されたReed 5T。

今回導入に至った経緯や、導入されてのご感想等を伺いました。

 

Q:初めてReed 5Tを聴かれたのはいつですか?

A:

17年の秋に、雑誌の取材で、Reedの5Tと1Cの組み合わせで聴きました。Reedに関しては、以前にReed3Pを試聴した事があり、その当時はVTAに対する考え方等が非常に面白い会社だなという程度の印象でした。

今回Reed5Tを初めて聴いた際、正直聴いた瞬間「え?」と思いました。安定感、微動だにしない音像定位、それからステレオイメージの広がりがあり、その中に音が整然と配置されている。オーケストラにしてもジャズコンボにしても、まるでビジュアルイメージが綺麗にそこにある様に聴こえるんです。遠近感を伴って、イメージがピタッと目の前に広がっている。これは凄いアームだと思いましたね。

ただ、試聴直後ではまだ導入したいと思うほどの気持ちの高まりはありませんでした。

Q:それが導入したいと思うようになった経緯をお教え頂けますか?

A:以前使用していたアームにエアータンジェントのリニアトラッキングアームがありました。その他にもピボット型ですがターレスの定理を実現するシンプリシティ、それとAirforce oneについているアコースティカルシステムズのAXIOM、KLAUDIOのARMといったように、私が現在使っている全てのアームは、いかにトラッキングエラーを無くすかという点に着目してデザインされたものです。。気が付くと我が家のシステムは全てリニアトラッキングを目指したアームになっていた訳ですね。

Reed5Tの試聴を終えて帰宅した後、ふと「SP10にReed5Tを付けたら面白そうだぞ?」と思ったのがきっかけです。

Reed5TをSP10に取り付けると機械的なタンジェンシャルアームと電子制御のタンジェンシャルアームの2種類を1つのターンテーブルで使い分ける事になり、恐らくこれは世界中でも誰もやっていない事ではないかと思いました。そこから色々な思惑が錯綜し始めて、「何とかReed5Tを取り付けられないか?」と考えるようになって、アイレックスに相談をさせてもらいました。

Q:Reed5Tを雑誌の取材で試聴された直後にご相談を受けた記憶があるのですが

A:そうでしたよね。性格的にせっかちなので、思い立ったら直ぐにやりたくなる性分なんです。善は急げでは無いですが、先延ばしにすると自分の中でも熱が冷めてしまいますし、後先考えずに突っ走って失敗する事もあるんですが、今回の場合はもう行くところまで行ってみたいなと。

特にアナログの事になると歯止めがきかなる性格なのも自分自身よく分かっているので、これはもうやるしかないという気持ちでした。

Reedの製品はメカ好きには非常にくすぐる部分があり、オーディオを始めた頃からずっと続けてきたアナログが、仕事上もプライベートも私の中でかなりのウェイトを占めていて、とことんやりたいんですよね。。レコード溝の中に入っているまだ聴けていない音を聴いてみたいという強い願望が常にあります。ビンテージオーディオを否定するつもりは全くありませんが、古いレコードに刻まれた音をより多く引き出すには、古典的なシステムではなく最新の技術と理論で構築された機材を使用した方が良いというのが私の考えです。

そういう意味で私の求めている方向性とReedが提供している技術と製品がばっちりミートしたと感じています。

Q: 今回こうしてReed5Tを納入させて頂きましたが、SP10に取り付けるためにReedが専用のブラケットも製作しました。全般的なReedの対応やクオリティはいかがでしたか?

A: 「そこまでやってくれるんだ」と正直驚き、感激しました。通常は輸入元がブラケット等の周辺機材を用意することが殆どだと思います。海外の製造メーカーが全て対応してくれるというのはあまり無いのではと思います。

Reedから送られてきた5T設置イメージ3D図面

しかも何度もやり取りをして、イラストではなくきちんとしたCAD図面で提示してくださり、ネジ位置やネジピッチの確認まで細かく行ってくれた。そんなメーカーは本当に稀有ではないかと思います。

私のSP10の場合、少し特殊で、SAECさんのコンソールがあって、そこにあるネジ溝を使ってアームブラケットを付けたわけですが、今回Reedが製作したブラケットは一体型かと思うほどの精度で作られていて、正直ここまで素晴らしいブラケットが出来上がってくるとは思ってもいませんでした。本当にいいメーカーとお付き合いができたなと思います。

しかもこれは私だけの特別対応ではなくReed製品を購入するお客様全てに対して提供されるサービスというところがすごいと思いました。自社の製品がどういうシステムに組み込まれ、そのためにはどうすれば理想的に設置ができるのかをしっかりとケアしている点で、製品に責任を持っていて、プロだなと思いました。

今回Reed 5Tを設置したSP10
Reed 5T用ブラケット装着作業風景
今回製作したReed 5T用ベース(裏面)
今回製作したReed 5T用ブラケット(表面)

Q: 今回設置したReed5Tにまずは光悦のカートリッジを取り付けられました。その状態でまずかけられたレコードのご感想はいかがですか?

A: まずかけたのはメル・トゥーメとジョージ・シアリングのサンフランシスコでのライブ盤ですが、しっとりとしたメル・トゥーメの声と会場の穏やかな雰囲気、ジョージ・シアリングのスッとサポートするピアノ。声が非常に瑞々しいし、会場のアンビエンスも綺麗に広がっている感じがありますね。

次も私の定番なのですが、ショーティー・ロジャースの「リエントリー」。これも非常に音がいいアルバムと思っていて、シンバルの音やドラムとベースのリズムセクションの定位感、あと左右のトップシンバルとハイハット。本当にピタッと出ているし、シンバルの位置は動かないし、尚且つ強弱が凄くしっかりと出ていて、ビジュアルイメージが綺麗に見える、これは普通のアナログ再生では味わえないReedのマジックだなと感じました。

「アナログっぽくない」というと語弊がありますが、Reed5Tはとにかく曖昧さが何もないんですよ。曖昧さがあるのがアナログの良さと考えている人もいると思いますが、私は曖昧さをできるだけ排除してアナログを聴きたいと考えているので、トランスペアレンシーというか、忠実度を高めていったときに行き着く「微動だにしない定位感」とか「奥行き感」といったものを追い求めています。Reed5Tは見事にそれを引き出してくれますね。

3枚目に聴いたのはジョニ・ミッチェルの「MINGUS」というLPの5曲目。B面のラストですので最内周になります。最内周側はどうしても再生上エクスキューズがついてしまいますよね。Dレンジもそうですし、歪みも増えてきて、再生上厳しくなってくるんですが、「Goodbye pork pie hat」という曲の中で、あれだけジャコ・パストリアスのベースがフワーっと広がって、しかも低域の解像度があって、そしてジョニ・ミッチェルの声がそこにパシッと出て、更にその後ろにフレットレスベースのハーモニクスが広がる感じは、オフセットアングルの付いたピボット式のアナログ装置ではなかなか聴けないですね。このアームでないと聴けない最内周の音の良さ、力強さだと思います。そういう意味ではReed5Tで聴く今の音は私にとって特異な経験です。

Q: アームですとリニアトラッキングアーム等様々な方式がありますが、それらと比べてReed5Tはいかがですか?

A: 一般的ないわゆるリニアトラッキングアームというのは色々なところで聴いてきました。忠実さはあると思いますが、どこか腰高な感じがしたり、音の線が細く感じられる部分がどうしてもあると感じてきました。音に力が無いと感じる事が多かったです。

Reed5Tにはそんな印象は一切ないですね。今日聴いた3曲も、以前に雑誌の取材で聴いた時も、まずズシッと安定している印象があります。土台がしっかりとしている感じですね。磐石な所があって重心が低い。そしてその上にしっかりと音楽が構築されるところがReed5Tの魅力ですね。設計コンセプトが実を伴って完成している感じがあります。

Reed 5T設置作業風景
専用治具を使用したアーム取り付け角度調整風景
設置が完了したReed 5T
Reed 5Tが追加された小原先生のアナログシステム群

Q: そうするとReed5Tでまたアナログの新しい可能性が見える感じがしますか?

A: そうですね。おざなりな言い方ですが、もう一回聴きなおさなきゃというディスクが目白押しでしょうね。SP10のシステムの完成度がここまで上がったという事で、私の中ではもっとアナログに対する意欲が湧いてきました。もっと深いところまで聴きこんでいきたいという想いですね。ですので、すごく高揚感を与えてくれる製品だと思います。

Q: Reed5Tはアームを交換できたり、オプションでユニバーサルタイプのヘッドシェルを取り付けることができますが、その辺りはいかがですか?

アームパイプの取替え作業を行う小原先生

A: まずユニバーサルタイプの交換用アームが用意されているというところがいいですね。こういう特殊なアームの場合、融通が利かないケースが非常に多いのですが、Reed5Tはアーム交換、シェル交換が非常に簡単にできますよね。今回私は全ての種類の交換用アームを導入しましたが、こういうアナログ本来の楽しみが持てるというのも非常に嬉しいことだと思います。

インテグレーテッド型トーンアームは、それ独自の完成度の高さから来る面白さはありますが、可能性としてはそれ以上無い。それに対してReed5Tはシェルどころかアームパイプも様々な仕様に交換できるので、非常に面白いです。

交換用アームパイプ
Reed社デザイナーのVidmantas氏サイン入りヘッドシェル・アームパイプケース