小原由夫先生によるAIDAS Cartridge徹底研究1

CUシリーズ編

CUシリーズ Durawood Bee

はじめに

 この記事における私の使命は、リトアニアに拠点を置く孤高のカートリッジ専業メーカー/Aidasのラインナップから毎回1機種を採り上げ、ヘッドシェル、シェルリード線、昇圧トランス、トーンアームケーブル、トーンアーム(+ターンテーブル)といった周辺機器と組合せて試聴することで、様々な角度からそのポテンシャルを徹底的に炙り出そうというものだ。
 その第1回は、コイルに銅線を使用したCUで、準備したのは木粉と特殊硬質レジンでできたハイブリッド材Composite Woodをボディに採用したバージョンである。
 なお同社製品は、アルニコマグネット、ボロン製カンチレバー、マイクロリッジスタイラス、24金プレスを施した真鍮パイプ製接続ピンが全シリーズを通じて共通しており、異なるのはボディやコイルの材料となる。
 試聴盤として用意したのは以下の3枚。
①ヴォーカル/パトリシア・バーバー「HIGHER」からB-1「High Summer Season」
②ジャズ/ショーティー・ロジャース&ヒズ・ジャイアンツ「Re-Entry」からA-1「The Goof And I」
③クラシック/大植英次、ミネソタオーケストラ「ストラヴィンスキー:火の鳥」から「カスチェイ一党の凶悪な踊り」

ヘッドシェル

※各モデル付属のシェルリード線を使用して試聴
YMK ZHS-01/ジルコニア(アルミナやセラミックよりも振動伝播速度が速い)
 S/Nがたいへん良好で、透き通るようなクリアネスとステレオイメージを見せる。ディテイル描写もすこぶる鮮明だ。
 ヴォーカルはややスレンダーな音像定位だが、質感再現はウォーム。ガッドギターのアルペジオが詳らかな描写で、旋律が美しく浮かび上がる。
 ジャズはシンバルの描写が実にきめ細かい。ベースラインは弾力があってしっかりとした足取り。ソロ楽器はくっきりと張り出し、アンサンブルとの距離感も感じられる。
 クラシックではローエンドまでスムーズに伸び、フラットで強調感がない。目の前に小人のオーケストラが整然と居並ぶ様相だ。

オヤイデ HS-CF/プリプレグ材(カーボン繊維板 )
 全体的にやや華やかな音調で、カラフルな表現に個性を感じる。
 ヴォーカル音像はキュッと引き締まっており、質感はナチュラルな色艶。ギターのアルペジオもクリアーな響きである。
 ジャズはやや賑やかで若干華美な装飾。リズムは引き締まっており、全体にメリハリを感じる。
 クラシックはマッシブなローエンドで、グランカッサの響きがスムーズ。金管がやや華やかにも感じられるが、スケール感とディテイル描写のバランスが取れている。

マイソニックラボ SH-1RH/アルミニウム合金
重心がやや低域に寄ったエネルギーバラン スだ。他の2つに比べると若干ナローレンジにも感じる。
 ヴォーカルは音像がグッと前に迫り出すが、質感にもう少し艶やかさが欲しい。ギターとの距離感もやや浅い印象で、アルペジオの旋律はタッチが太め。
 ジャズはシンバルがいくぶんソリッドで、質感描写がシャープ。ソロは克明な再現で、リズムは少々ゴリッとしながらグッと前に迫り出してくる。
 クラシックでも楽器の質感がややソリッド。スケール感は重厚かつ立体的で申し分ない。

シェルリード線

※ヘッドシェルは、前述の試聴で好印象であったYMK ZHS-01に固定
Audio Reference/AR-AG3(特殊アニール処理単線純銀撚り線)
 かつて一部の純銀線で見受けられた高域のピーキーなクセはなく、しっとりとしたしなやかな質感だ。
 ヴォーカルの質感は実に有機的で、艶っぽく瑞々しい。ガットギターのアルペジオも余韻のエンベロープが美しく消え入る。
 ジャズでは少々見え過ぎるきらいがあるほど高分解能で高解像度。しかしまったく冷たくも硬くもない。楽器の質感がナチュラルで、色合いも鮮やかに感じられる。
 クラシックはローエンドがマッシブだが、引き締まり過ぎてはいない。重心が低く、安定感がある。

オヤイデ HSR-AG/高純度銀線(5N純銀単線)
 繊細かつ精密な表現で、やや低域が膨らむ傾向を感じるとはいえ、違和感はない。
 ヴォーカルは音像の張り出し具合いがいい。ガットギターの音色も自然で、艶やかな響きを感じる。
 ジャズはAidasならではの分解能の高さが ストレートに出た印象。ソロ楽器とアンサンブルの距離感、リズムセクションのタイトなビートが少し後ろ側に展開する。
 クラシックはとにかく勇壮で重厚なスケール感に圧倒された。ディテイル再現の細やかさも素晴らしい。それでいて響きが柔和なところもいい。

オーディオテクニカ/AT6101(PCOCC)
 低域が若干膨らみ、パワフルには感じられるものの、やや強調感を伴う印象。
 ヴォーカル音像は大きめでグラマラス。質感再現は若々しく、明るめに感じる。音場感はやや狭いものの、ガットギターのアルペジオの旋律が実に細やかな描写だ。
 ジャズはまったくもって中庸なバランスの良さで聴かせる。リズムがやや一本調子ではあるが、太くてがっちりとしている。
 クラシックはダイナミックで、いい意味で豪快さが現れた。アンサンブルが若干粗く感じられるものの、末広がりのエネルギーバランスは安定している。

昇圧トランス

ルナケーブル SUT(Neo Vintage銅隊線+ ウォルナット・マホガニー製ケース)
 滑らかで艶やかなトーンがたいへん魅力的に感じられるトランスだ。
 ヴォーカルの音像フォルムは3次元的な実体感と実在感で、ガッドギターのナイロン弦がここまでそれらしく感じられることは稀。
 ジャズではシンバルの音かがまさしく“重高音”という感じでヘヴィー。ソロ楽器はググッと前に張り出し、リズムセクションがそれを後ろで支える感じ。
 クラシックは周波数レンジが広く、グランカッサの打音が圧倒的エネルギーでがっちりと決まる。アンサンブルも堂々としている。

オルトフォン T-7000(高純度7N無酸素銅、2~6Ω/25dB、1991年発売)
 周波数レンジは若干狭いが、張りのあるトーンで躍動感も感じられる。
 色艶や瑞々しさは中庸なヴォーカルの質感だが、音像フォルムはグラマラス。ガットギターの響きが若干シャープに感じられる。
 ジャズは狭い帯域なりに楽器の質感再現が濃密で、ベースの音階にはふくよかさ、シンバルの音色の描き分けはソリッドに傾く。
 クラシックはいくらかソリッドなこのトランスの質感再現とよくマッチしている。精密な演奏の細部がよくわかる表現力だ。

オーディオテクニカ AT-SUT1000(パーマ ロイコア/特殊分割巻きトランス)
 ウォームで柔らかで、ナチュラルなソノリティで聴かせるトランスである。
 ヴォーカルは程よい肉付きで、ややスレンダーな音像フォルム。艶っぽいのはガットギターの音色も同様で、細やかな描写である。
 ジャズもクセがなく、リズムがやや引き締まって聴こえる。ソロ楽器の張り出し具合は鮮明だ。
 クラシックのアンサンブルは実に緻密。どっしりとした末広がりのエネルギーバランスで、ダイナミックかつ重厚に演奏が展開する。

トーンアームケーブル

ルナケーブル Rouge(独自配合のNeo Vintage銅線)
 実に繊細かつ精密な描写をするケーブルだ。
 ヴォーカルは一聴で地味に感じるものの、質感再現がとにかくナチュラル。声もギターも音色がきわめて自然。音場の見晴らしも明瞭である。
 ジャズはソロ楽器の張り出し具合が実体感があって力強い。グーッと前に出てくるのだ。楽器の音色自体も自然だ。
 クラシックでもグランカッサの伸びが素晴らしい。これみよがしなところがなく、自然にスーッと伸びていく。ダイナミックレンジも広く、アンサンブルはたいそう立体的。

DSオーディオ PH-001(銀メッキ銅線)
 やや張りのあるトーンで、色艶よりも解像度が勝る再生音だ。
 ヴォーカルは歌唱の語尾のニュアンスがくっきりと立つ。ギターも弦のタッチなど、微細な情報が一層詳らかになった。
 ジャズはシンバルの音の描き分けが凄まじい。ソロとアンサンブルの対比も克明で、管楽器のきらびやかなトーンが堪らない。
 クラシックは超低域までレンジ感が無理なく伸びており、なおかつトランジェントが抜群によい。スケール感と重厚さも申し分ない。

オーディオテクニカ AT-TC1000DR/1.2(7N-Class D.U.C.C.高純度銅線)
 末広がりのエネルギーバランスで、パワフルかつダイナミック。細部の描写も細やかだ。
 ヴォーカルはいくぶんふくよかで声量の豊かさを感じる。音像フォルムも生々しく、ギターのアルペジオはくっきりと現われる。
 ジャズも力強く、アンサンブルは精巧で力強い。リズムセクションがスーッと浮かび上がり、ビートががっちりとした骨格で鳴る。
 クラシックは熱気に溢れたダイナミックな演奏に感じられた。重厚で立体的なスケール感で再現され、楽曲のムードがよく出ている。

ターンテーブル/トーンアーム

 この試聴に関しては、当方が愛用しているメインシステムのターンテーブル3モデルにおいて、それぞれ現在搭載しているトーンアームとの組合せで行なった。ヘッドシェルはYMK ZHS-01で固定。
テクニクスSP-10R/サエクWE-4700
 贅肉を削ぎ落としたかのようなストイックさがある音だが、同時に鮮烈さも感じる音。
 ヴォーカルはややスレンダーな音像定位と質感だが、細部のニュアンス描写は克明。ガットギターの音色とトランジェントも秀逸。
 ジャズでもソロに寄り添うようにアンサンブルが定位する。それを後から支えるリズムセクションという構図がステレオイメージとして浮かび上がる。
 クラシックではグランカッサの響きが逞しく、地を這うように伸びる。音場の見通しも晴れやかで、周波数レンジはフラット。

テクニクスSP-10mk2/リード5T
 メリハリがあり、細部の描写が極めて細やか。また、音像のセンター定位も微動だにしない安定感がある。
 ヴォーカルの音像定位はまさに上記の通りで、ビシッと安定に鎮座する印象。華奢な感じはまったくなく、ギターの音も揺るぎない。
 ジャズもソロとアンフンブルの距離感の再現が見事。リズムセクションの存在感もくっきりとしており、シンバルの音色も多彩。
 クラシックも重厚さという点は見事という他ない。しかもハーモニーが美しく、響きに滑らかさも感じる。

由紀精密AP-01/グランツMH-124S「刀」
 極めて広いダイナミッレンジと鋭敏な細部の描写力があり、おそらくトランジェントは最も優秀。情報量の多さも半端ない。
 音像定位はビシッとセンターに微動だにせず、ヴォーカルとギターの立体的なフォルムがクリアーな見通しの音場内に浮かび上がる。
 ジャズは繊細な音色とリアルな質感再現に聴こえた。ソロの音像定位は精巧な彫刻のようだ。ベースのトーンも引き締まっている。
 クラシックはコントラストとグラデーションが鮮やかという印象。3次元的な立体感もあり、スケール感が実に雄大だ。

最後に

金属材料の専門家であるAidas Svazas氏が生み出したカートリッジとの相性という点で、化学材料の融合であるSMKのジルコニア製ヘッドシェルが抜群のマッチングを示したことは、実に興味深い結果であった。その無共振のコンセプトとは、高剛性の設計思想に基づくトーンアームとの相性もいい。AIDASは音楽の選り好みも少ないカートリッジという印象だが、組み合わせる周辺アイテムによって、特定の音楽ジャンルに対してより深い魅力を発揮することがわかったことも収穫であった。