小原由夫先生によるAidas Cartridges徹底研究3

■はじめに
 Aidasカートリッジの真価を探る連載も、いよいよフラグシップモデルAUのインプレッションだ。他のシリーズとの最も大きな違いは、発電コイルに24金線を採用している点。当然最高峰に相応しい稀少で高価な材料であり、それが音質にどう反映されているか興味はつきない。なお、アルニコマグネット、ボロン製カンチレバー、マイクロリッジスタイラス、24金プレスを施した真鍮パイプ製接続ピン等は、全シリーズ共通の仕様である。また、独自開発のダブルサスペンションに特注のゴム化合物を採用しており、これは長い研究の末に辿り着いたノウハウに基づく。
 今回試聴したモデルのボディは、Tru-stone Violet Goldというバージョンで、85%天然石を微粒子パウダー状にしてレジンで固めたハイブリッド材。独自の配合でダンピング特性コントロールしている。
         *
 試聴は前回同様、ヘッドシェル、シェルリード線、昇圧トランス、トーンアームケーブル、トーンアーム(+ターンテーブル)といった周辺機器との組み合わせ。試聴盤も前回と同じ3枚のLPである。
①ヴォーカル/パトリシア・バーバー「HIGHER」からB-1「High Summer Season」
②ジャズ/ショーティー・ロジャース&ヒズ・ジャイアンツ「Re-Entry」からA-1「The Goof And I」
③クラシック/大植英次、ミネソタオーケス トラ「ストラヴィンスキー:火の鳥」から「 カスチェイ一党の凶悪な踊り」

<ヘッドシェル>
※各モデル付属のシェルリード線を使用して試聴
●YMK ZHS-01/ジルコニア(アルミナやセラ ミックよりも振動伝播速度が速い)
 過去のインプレ同様にAUシリーズとの相性がよい。分解能が高く、ダイナミックレンジは広大。リファレンス的に使える組合せだ。
 ヴォーカルは瑞々しく、音像フォルムが克明。ガットギターは指の腹が弦に当たる音も生々しく、声との距離感も立体的。
 ジャズではシンバルの音色、ベースのピッチが明瞭。ソロとアンサンブルの対比もクリアーで安心して聴いていられる。
 クラシックはグランカッサの余韻がズシリと響く。どっしりとしたエネルギー感で、迫力も充分。ディテイル描写にも精密感がある。

●オヤイデ HS-CF/プリプレグ材(カーボン 繊維板)
 精巧さと整ったエネルギーバランスで聴かせるタイプのヘッドシェルと感じる。
 ヴォーカルの定位とフォルムが適度にシャープ。質感そのものは滑らかで瑞々しさを含んでいる。ガットギターのナイロン弦の質感もよく、微細なタッチが精巧に描写された。
 ジャズも精緻な再現。克明なリズムだが、やや軽快な印象で、ソロとアンサンブルの距離感も近い。実在感、実体感のある音だ。
 クラシックはグランカッサのエネルギーがグッと低く沈んだ上でフワッと広がる。エネルギーバランスは重心が低く、超安定。オーケストラの細部もよく見える。

●マイソニックラボ SH-1RH/アルミニウム合金
 若干の硬質感が顔を覗かせるが、全体にメリハリのはっきりとした明快な音だ。
 ヴォーカルはしっかりとした骨格の音像フォルムで、全体にメリハリのある再生。ナイロン弦の質感は若干ソリッドな印象。
 ジャズはシンバルに適度な硬さがあって輝かしい響きに感じる。ベースはやや細身だが、ピッチは極めてクリアーだ。
 クラシックはさまざまな打楽器の精密さが伝わる再生。ハーモニーに重厚さがあり、エネルギー的に疎になる帯域がないのも美点。

<シェルリード線>
※ヘッドシェルは、YMK ZHS-01に固定
●Audio Reference/AR-AG3(特殊アニール処理単線純銀撚り線)
 整ったエネルギーバランスで妙なクセもナシ。なおかつワイドレンジにも感じる。
 ヴォーカルは音像フォルムがやや大きめだが、弦の響きも含めて質感自体は非常にナチュラル。繊細さと分解能がほどよい按配だ。
 ストレートかつダイレクトなシンバルの音が清々しいジャズ。ソロは一歩前に迫り出し、アンサンブルとの対比が好ましい。
 クラシックもマッシブで力強い演奏に感じられる。高域の抜け、広大なダイナミックレンジもあり、満足度の高い再生だ。

●オヤイデ HSR-AG/高純度銀線(5N純銀単線)
 鋭敏でシャープな音を身上としたリード線と見た。付帯音のないすっきりとした音。
 ヴォーカルはスリムかつスレンダーな音像定位で、ギターのアルペジオも繊細かつ精密感のある音。余計な響きが乗らない。
 ジャズはソリッド感がやや先行するイメージで、リズムがクリアーに浮かび上がる。ブラスセクションの輝かしい音色もいい。
 たいそうマッシブで力強い演奏のクラシック。グランカッサの一撃が強烈で、末広がりのエネルギーバランスもこの曲の圧倒的なパワーをしっかり支えている印象。

●フルテック/LP-Silver 101(純銀α導体+燐青銅削り出しロジウムメッキピン)
 ニュートラルな質感再現と、立体的な空間表現力に突出したリード線だ。
 ヴォーカルは滑らかさと瑞々しさが特筆でき、ほどよい艶っぽさもある。ガットギターはボディの胴鳴り、ナイロン弦特有の張りのある音色が好ましい。
 ジャズは精密感があり、これまたニュートラル。ソロとアンサンブルの立体的な展開も好ましく、シンバルを含めたリズムが鮮明。
 クラシックを聴いて、最もバランスの取れたリード線という印象を強くした。重心の低さとピラミッド状のエネルギーバランス、オーケストレーションの細部を引き出す分解能が素晴らしい。スケール感も重厚かつ雄大。

<昇圧トランス>
●ルナケーブル SUT(Neo Vintage銅隊線+ ウォルナット・マホガニー製ケース)
 芳しき色艶が感じられる、主張のはっきりとしたトランスだ。ハマッた時の再現性は唯一無二の魅力。
 ヴォーカルには色艶だけでなく、温かみと湿り気を感じる。ガットギターのナイロン弦の柔らかな音色・質感もいい。
 ジャズはブラスセクションに厚みがあり、スモールコンボらしいタイトさが前面に出た。ソロのフレーズがグッと前に張り出す。シンバルの精密感も素晴らしい。
 クラシックはグランカッサの響きが深く、余韻がフワッと広がる。リズムにはスピード感があり、トランジェントのよさが実感できる。アンサンブルも重厚だ。

●オルトフォン T-7000(高純度7N無酸素銅2、~6Ω/25dB、1991年発売)
 がっちりとした骨格を抱かせる再現力。ややナローレンジかもしれないが、力強さと逞しさは今以て第一線級に引けを取らない。
 音像フォルムに厚みを感じるヴォーカルの再現。色艶もウェルバランスで、ガットギターの響きが自然だ。
 ジャズではシンバルの音にコツコツとした芯を感じる。楽器の音色はナチュラルで、合奏のディテイルも精巧に感じられる。
 クラシックは全体に濃密な色合いで、オーケストレーションが一段とカラフルに感じる。重厚さもある。

●オーディオテクニカ AT-SUT1000(パーマロイコア/特殊分割巻きトランス)
 密度の濃い音が身上で、分解能も高い。エネルギーバランスの安定したトランスだ。
 落ち着いた大人のムードのヴォーカル再現。しっとりとした色艶と湿り気が声に乗り、適度な弾力も感じる。ナイロン弦のニュアンスは指のタッチが実にナチュラル。
 ジャズではソロとアンサンブルの対比、距離感が的確で、楽器の質感が精巧に再現された。シンバルの響き、ピアノの音色も自然。
 クラシックではグランカッサの余韻がフワッと広がって拡散するイメージ。立体感に富んだオーケストレーションが堪能できた。

<トーンアームケーブル>
●ルナケーブル Rouge(独自配合のNeo Vintage銅線)
 キリッと引き締まった中にも、艶やかな質感再現が魅力的なケーブルだ。
 ヴォーカルは滑らかで艶やか。音像定位も克明でリアリスティック。ギターはアコースティックな質感再現がとにかく素晴らしい。
 ジャズではアンサンブルのハーモニーが非常にナチュラル。ソロ楽器の張出しも自然で、リズムセクションのビートが克明だ。繊細さも感じられる。
 クラシックは余韻が立体感に富み、オーケストラの見通しが良好。微細なニュアンス描写も高く、重厚さも相まって満足度高し。

●フォノ・アコースティカ(金/銀の合金単線)
 非常に高い分解能と豊穣な色艶の再現力が素晴らしい。これまた唯一無二の魅力を感じるケーブルである。
 しっとりとして落ち着いた雰囲気の女性をイメージさせるヴォーカル表現。ガットギターの響きも極上のしなやかさとナチュラルさだ。
 ジャズでは力強さと繊細さがほどよくバランス。アンサンブルの立体感とハーモニーの美しさも格別。ブラスには輝かしさがある。
 クラシックはグランカッサの余韻が強靭さを伴った広がりを見せる。重厚さとスケール感も圧倒的で、オーケストレーションの細部が実に細やかに見通せる。

●オーディオテクニカ AT-TC1000DR/1.2(7N-Class D.U.C.C.高純度銅線)
 体幹がしっかりとした音という印象。力強さの中にもきめ細かな再現力がある。
 ヴォーカルの色艶はニュートラルだが、音像の実体感は克明。ガットギターの響きはナチュラルで、弦を爪弾く音がトランジェント鋭い。
 ジャズでは楽器の質感がたいそうナチュラルで、アンサンブルとソロの距離感も実在的。演奏が一段とダイナミックに感じられる。
 クラシックはエネルギーバランスとスケール感がいい按配で、グランカッサ等の打楽器のパワーに十二分な迫力がある。

<ターンテーブル/トーンアーム>
 当方愛用のターンテーブル3機種において、それぞれ現在搭載しているトーンアームとの組合せで行なった。ヘッドシェルはYMK ZHS-01で固定。
●テクニクスSP-10R/サエクWE-4700
 シャープさと精密感が印象的な再生音。ディテイル描写が極めて緻密で精巧だ。
 ヴォーカルの表情は細やかですっきり。色艶よりも細かなニュアンスや抑揚が浮かび上がるイメージ。ギターの質感再現も自然だ。
 ジャズではシンバルの硬質感が丁寧に再現された。リズムセクションの明晰さも好ましい。アンサンブルのハーモニーがリッチ。
 クラシックはワイドレンジな再現で、グランカッサの一撃が実にパワフルかつダイナミック。オーケストレーションの細部もよく見える。

●テクニクスSP-10mk2/リード5T
 ディテイル表現と音場の立体感に魅力を感じるサウンド。エネルギーバランスも安定している。
 ヴォーカルは非常にリアルな質感再現で、音像定位も克明。ガットギターは弦を爪弾く音の強弱や緩急が明瞭に再現された。
 ジャズは実にリズミカルで実体的な再現。ソロとアンサンブルの距離感も見通しよく、ブラスの輝かしさと厚みがリアリスティック。
 クラシックもパワフルさと細やかさがいいバランスで、どっしりとしたエネルギーバランスの中に音が規則正しく積み上がっていくような印象だ。

●由紀精密AP-01/グランツMH-12「刀」
 感度のよさが明瞭に伝わる再生音。ワイドレンジ、ダイナミックレンジ共に広々としている。
 ヴォーカルは色艶だけでなく、抑揚や発音のニュアンスなどが鮮明に再現される。ガットギターのニュアンス描写も細やかだ。
 ジャズでは楽器のアコースティックな質感再現と分解能がほどよいバランス。ブラスセクションの響きが煌めいている。
 クラシックは、今回の試聴で最も凄味のある演奏だった。リアリティと分解能、スケール感が整っており、アンサンブルはパワフルさとしなやかさが巧みに統合されている。